二葉亭四迷はパタンと本を閉じた。そしてふと坪内逍遥に桜を見ようと誘われていたことを思い出した。外はすっかり暗いが夜桜が特に綺麗だと彼は言っていた。 さて、四迷は [[逍遥の部屋へ行ってみる->2]] [[談話室を覗く->3]] [[庭に出てみる->4]]四迷は逍遥の部屋をノックしてみた。 「逍遥さん、俺です。いらっしゃいますか?」と叫んでみるものの、答えはない。 四迷は…… [[ノブを回して部屋に入ってみる->6]] [[引き返す->5]]四迷が談話室に入ると、そこには誰も居ず、窓が開けっ放しになっている。夜の風が吹き込み、カーテンははためいている。時折ガラス窓が音を立てた。窓際の席には桜の花びらがたくさん散らばっていた。テーブルにはカップがおいてあり、紅茶が残っていた。読み途中だったらしい本が栞も挟まずに投げ出されたように置かれている。 四迷は…… [[急いで窓の外を覗く->7]] [[談話室を後にする->5]]夜桜を見に……。 逍遥がいるのではないかと、四迷は庭を歩き回ったが彼がどこにいるのか分からず、結局会えないまま建物へ戻ってきた。 [[部屋へ帰るなら->17]] [[最初からやり直すなら->1]]四迷は [[逍遥の部屋へ行ってみる->2]] [[談話室を覗く->3]] [[庭に出てみる->4]]四迷が部屋に踏み込むと勿論主の姿はない。 バツが悪くなって「逍遥さん?」とさもいるかもしれない体で問いかけてはみるが人の気配は全くない。 それでも部屋を見回していると、机の上に何か書かれた紙を見つけた。 四迷が眼鏡を掛け、それを読むとこう書いてあった。 『四迷くんへ 談話室で待っているね。 逍遥』 [[四迷は部屋を後にした。->5]]庭の外に妙に明るく光る大きな桜の木が見える。そのそばを小柄な姿が歩いていくのが見える。逍遥に違いないと四迷は思う。 四迷は…… [[慌てて窓から逍遥の名を呼ぶ->8]] [[エントランスから回って庭へ出ようとする->18]]四迷は胸騒ぎを感じ、大声で逍遥の名を呼んだ。 届かないかと思ったが、小柄な姿が振り向き、「四迷くん?」と彼は足を止め、こちらへ戻ってきた。窓のすぐ外まで来てくれる。 「あぁ、逍遥さん、よかった」と四迷は言う。 逍遥は笑って、「どうしたんだい? そんなに血相を変えて」 四迷は「いえ、その……。たった今まで貴方がここにいらっしゃったようなのにどこにもいないから、さらわれたのかと思いました」とそのまま思ったとおりに答えた。 逍遥は笑って、「そんなわけないじゃないか。ちゃんと、部屋にメモを残しておいたのに。さ、君さえよかったら私おすすめの夜桜をお目にかけるよ。外へ出てきておくれ」と言った。 [[四迷はエントランスに向かった。->9]]四迷が外に出ると逍遥がちゃんと待っていてくれた。彼は先程見えた大きな桜の木を目指して歩き始めた。先程と同じように青白いライトに照らし出された大きな木が満開の花をつけている。 四迷は [[「綺麗ですね」と言う->10]] [[「これが逍遥さんおすすめの木ですか」と感心してみせる->14]] [[「どの桜もあまり変わらないですね」と言う->13]]逍遥は頷いて「そうだろう。この庭でも一番いい木だよ」と言ってから、木ではなく四迷の顔を見つめた。 四迷は [[「貴方も綺麗だと言いたかったのです」と言い添える->11]] [[やめておく->12]]逍遥は「他とは違うだろう? 木も大きいし、なんというか……特別な存在感がある。君にも気に入ってもらえたなら良いのだが」と付け加えた。 二人はまだしばらく桜の下に居たが、花びらが頭上を覆っているのでまるで他から遠ざけられた場所にいるかのようだった。 夜ということもあって、他に花見の人は現れなかった。 「逍遥さんには桜がよく似合っていますよ」と四迷は言ってみた。 「そうかい?」と逍遥。「この服装のせいかな?」 「それもありますが……。さっきは本当に驚きました。この木のかどうかは知りませんが、あんなにたくさん吹き込んだ花びらを見て、逍遥さんが花にさらわれたかと思いましたよ」と四迷は言った。 「君も意外にそういう怪談めいた話が好きだね」と逍遥は笑った。 「分かりませんよ」と四迷は木を見上げて言った。 「何食わぬ顔であなたが花に見とれていることを幸いに、向こう側へ引っ張っていってしまうかもしれません」 「脅かさないでおくれよ」と逍遥は困った笑い顔をし、四迷は彼の手をぎゅっとつかみ、引っ張るようにして桜の木の下を離れた。 「四迷くん?」 「さらわれる前に俺が連れ帰ってあげます」 「ほんとに心配性だね、君は」 逍遥は声を上げて笑い、[[四迷は苦り切った顔をし、それから照れたような微笑を浮かべた。->25]]「え……そうかい?」と逍遥は少し真顔になり、しばらく木を見上げていたが、四迷を促して、その場を離れた。 [[図書館の建物へ戻った。->15]]「え……何を言ってるんだい?」と逍遥は若干挙動不審になった。 それでもさっきよりニコニコし、四迷に言った。 「ちょっとまだ冷えるね。花は堪能できたかい?  [[よければ戻って話でもしよう」->16]]しばらく花を眺め、逍遥は「そろそろ戻ろう。体が冷えていけない」と言い、 [[二人は建物へ戻ることにした。->15]]「今夜は付き合ってくれてありがとう。おやすみ」と逍遥は四迷に言った。 「こちらこそお誘いありがとうございました。おやすみなさい、逍遥さん」 四迷は言って、逍遥と別れ、 [[自分の部屋を目指した。->19]] 談話室に戻り、二人は紅茶を飲み語り合った。 途中で逍遥が言った。「四迷くん、さっきみたいな台詞は……。好きな人に言ってお上げ」 「え?」 「え? って。当然だろう」 友に言う言葉ではないよと付け加え、逍遥がまた別の話を持ち出す。 そんなふうに時間が過ぎ、 [[二人はそろそろ引き上げることにした。->20]]逍遥の誘いの件は気になったが今日はもう眠りたいと考え、四迷は自分の部屋へ引き上げた。 END [[最初へ戻るなら->1]]逍遥がいるのではないかと、四迷は庭を歩き回ったが彼がどこにいるのか分からず、結局会えないまま建物へ戻ってきた。 [[部屋へ帰るなら->17]] [[最初からやり直すなら->1]]逍遥の反応はいまいちだったような気もしたが、もう疲れたので、四迷は自分の部屋へ引き上げるなりベッドへ倒れ込んだ。 END [[最初へ戻るなら->1]]「今夜は付き合ってくれてありがとう。おやすみ」と逍遥は四迷に言った。 「こちらこそお誘いありがとうございました」 四迷はそこまで言って、おやすみなさいと付け加える前にちょっと考え…… [[「それでも、友であっても逍遥さんはお綺麗に見えたのです」と口ごもりながらも言う。->22]] [[おやすみの挨拶だけをして自分の部屋を目指す。->23]]逍遥の目がまんまるになったかと思うと、ボッとコンロの火でも点いたかのように彼の顔が真っ赤になった。 「え……っと……それは……えーと、錯覚だよ、錯覚。桜が綺麗すぎたのだね」と彼は常にはないほど動揺した様子で言い、逃げるように自分の部屋へ去っていった。 四迷は後に取り残された形になった。彼は少し微笑んで逍遥の部屋のドアを眺めていたが、そのまま、[[自分の部屋へ向かった。->24]]四迷は部屋に戻ると、ベッドに潜り込み、つい余計な一言を告げてしまったなと少し後悔した。 END [[最初へ戻るなら->1]]部屋に戻ると再び、逍遥の顔が思い出され、四迷は思い出して笑った。 今夜はきっと楽しい夢が見れるかもしれない。 四迷はベッドに潜り込んだ。 END [[最初へ戻るなら->1]]二人は談話室へ一緒に戻った。開きっぱなしの窓と夜風にはためくカーテン、吹き込んだ無数の花びら。テーブルに開かれた本、置かれたカップ……。 「まさかとは思いますが、逍遥さん、窓から外へ出たのですか?」と腰掛ける逍遥の向かいに座りながら四迷は言った。 「いやいやいや、さすがにそれはないよ。君を待っていようと思ったんだが、早く桜の木々の下に立ってみたくて、フライングしてしまった」 「はは、そうですよね」 「風が冷たくなってきたね」逍遥は立ち上がり、窓を閉めた。 「今日はお誘いありがとうございました」 「いやぁ、君と一緒にあの木を見上げたかったんだよ。応じてくれてありがとう」と逍遥。 「そういえば、なんの本を読まれていたんですか?」 四迷はテーブルに広げられた本に視線をやった。 「うん、現代作家の本を少しね。最近の作家の文章というものは、とても自由だね。読みやすく自然で……眼の前で今まさに物事が起こっているかのようだ」 四迷は彼の表情を見て感心したように、 「それほど貴方が褒めるのなら随分面白いのでしょうね」 「読み終わったら君に貸してあげよう」逍遥はそう言って、大事そうに本に栞をはさみ、それを閉じた。 「四迷くん、眠くはないのかい?」 「いいえ、目は冴えていますよ」 「そうかい? じゃあもう少し話に付き合ってもらえるかい」 「喜んで」 結局二人はそれからまた話し込み、随分と時間が経ってから[[談話室を後にした。->26]]「おやすみ、四迷くん。今夜は楽しかった」逍遥が笑って言った。 「こちらこそ。またこうやってお話ししましょう。それでは、おやすみなさい」と四迷も頭を下げた。 逍遥が自分の部屋に戻り、四迷も自分に割り当てられた彼の隣の部屋に戻った。 その日はベッドに入ってもまだ、楽しい気分が去らず、なかなか寝付けなかったが、そのうちに寝入ってしまった。 END